一本の電話(親方の4)

続き・・・。

それから十数年・・。

この一本気な親方の会社は、堅調な業績を納めた。

税務担当の私も、この会社と共に成長した。
いや、育ててもらったと言ってもいい。

意見が対立することはしばしばあった。
ときには大ゲンカもした。ミスもした。(けっこう多かったと思う)
とにかく、よく怒鳴られた。 

しかし、けっしてクビにされることはなかった。

むしろ、若い私の意見を信用し、
大抵のことについて受け入れてくれた。

事務員を採用してくれといえば、採用し。
ファックスを買ってくれといえば買い・・。
若い衆の福利厚生を充実してくれ、と言えばそうし・・。

何時も時間はかかる人だったが、

最後には・・、

『わかった。わかった。お前がそうしろっていうなら、そうするよ。』

・・と、にっこり笑顔 

義理人情のがんこ親父・・・・、親方が親方たる所以である。






そんな親方も、もうずいぶんな御歳・。

5年くらい前には大きな病気もし、
かつての気力・体力は見る影もない。

ここ数年は、入退院を繰り返し、会社に来るのがやっとの状態。
ソファーで寝っ転がる日々が続き、思考・言動・記憶力もかなりあやしい・・・。

事務員がいつかないようになり、従業員も1人やめ、2人やめ・・。

それでも、

『若い衆がいる限りやめられん。』
(若い衆といっても、もう皆還暦を超えているのだが・・。)

気力をつなぎ止めているのは、この思い一点であった。



親族や私の反対を押し切り、損を承知で、親方であり続けた。



昨年、私が税理士となったときには、

『よくがんばったな~。よくやったな~。あの若造がな~。』

・・手を握り、涙を流して喜んでくれた。 

覚えてくれていたことが、とてもうれしかった。

親方の中では、私も気がかりな若い衆の一人なのである・・。





しかし、この度、親族、若い衆(私を含む)、関係者の強い説得で、

ついに、ついに会社を解散することとなった。



『 もう、十分だよ親方・・。もうやめもいいんだよ親父・・・。』




・・その幕引きの事務手続は、もちろん私の役目。

最後の大仕事。完璧にやりとげたいと思っている。





そんな中、

先日、謀会社(親方の会社のメインの取引先)が、

『この件で話がしたいので会いたい

・・と怒り口調で電話がかかってきた。   ・・・・続く。

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